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アクセシビリティから考える、ソニーグループの先端技術と介護事業のコラボレーション
~老人ホームで楽しみながら取組む
「リハビリゲーム」をトライアル導入~

2023年05月15日

介護

毎年5月の第3木曜日(2023年は5月18日)は、全世界で、アクセシビリティ(※)と、アクセシビリティを必要とする人たちについて語り、考え、学ぶ「Global Accessibility Awareness Day(GAAD)」です。ソニーグループでも各事業でアクセシビリティ向上に向けたさまざまな取組みを行っています。
(※)アクセシビリティ:年齢、身体、環境などに関係なく、誰もが機器やサービスを簡単に利用できること


ゲームをプレイする様子

アクセシビリティの観点から「年齢」の壁を超えるために、ソニーグループではさまざまなアイデアを形にしようとしています。その一つとして、高齢者にも、今までよりももっと気軽にゲームを楽しんでもらえないか、また、ゲームの形で楽しみながら「リハビリ」の効果を狙えないかとの発想から、ソニーグループのインハウスデザイン組織であるクリエイティブセンターとソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が協力して、ソニー・ライフケアグループが運営する老人ホームにおいて、ある「トライアル」を行っています。今回はその「トライアル」についてレポートします。

ソナーレ目白御留山での「リハビリゲーム」のトライアル導入

ソナーレ目白御留山外観

ソナーレ目白御留山内観

ソナーレ目白御留山は、ソニーフィナンシャルグループで介護事業を営むソニー・ライフケアグループの一員であるライフケアデザインが運営する介護付有料老人ホームです。ソニー・ライフケアグループでは、"Life Focus" を事業コンセプトに、ご入居者がいつまでも安心してご自身に合った生活を送っていただける介護をめざしています。

事前設定の必要がなく、モニターの前に座るだけでスタートするゲーム「キノコビト」

キノコビトスタート画面
※ゲーム制作協力:Q-Games Ltd.

ゲームをプレイするうしろ姿

今回、ソナーレ目白御留山で歩行などのリハビリテーションを行う機能訓練室に据え置かれたのは、大画面のモニターとセンサーカメラ。その前に、椅子が用意されています。
ゲームを始めるために、本体やモニターのスイッチを入れる必要はありません。専用コントローラーを手に持ったり、機器を身に着けたりする必要もありません。
人がモニター前の椅子に座ったことをセンサーカメラが認識すると、ゲームが自動でスタートします。

このゲームでコントローラーの役目を果たすのは、ゲームをする人の「手」です。センサーカメラが椅子に座った人を認識し、その人が画面の前で左右上下に動かす「手」を認識するのです。ゲームの内容は、画面上から落下してくるキャラクターを、画面上に現れた自分の「手」で受け止め、画面内のキノコの上に乗せていく、というシンプルなものです。ゲーム終了時にはキノコの上に乗せることができたキャラクターの人数が表示され、プレイ結果の記録が見られます。
ご入居者のなかには、毎日のようにゲームに挑戦し、すでにキノコの上に乗せられる最大人数を何度も記録した「ヘビーユーザー」の方もいらっしゃるそうです。

ゲームを楽しむことが自然と、身体可動域を広げる「リハビリ」につながっていることに驚いています

介護付有料老人ホーム ソナーレ目白御留山 機能訓練指導員 作業療法士 高橋 歌織

担当者写真

ソナーレでは、私のような作業療法士(*)が中心となり、日常生活の動作の維持や改善を目標に、リハビリを通じてご入居者お一人おひとりの生活全般のサポートを行っています。
(*)食事や入浴などの身体活動からこころの問題まで、日常生活に関わるすべての活動への支援を通じて治療を行い、患者が生き生きと自立した生活を送ることができるように支える専門職

今回の「キノコビト」のホームへのトライアル導入では、ご入居者へのゲーム内容のご説明や、プレイ時の補助を担当しています。テレビゲームに触れたことがないご入居者がほとんどで、アクティビティの時間にゲームの体験枠を設定してご紹介したところ、予想以上に多くの方が興味を持たれ、進んで体験されました。なかには、ゲーム好きのご家族にお話をしたところ、お孫さんなどが大変興味を持たれ、そのことがきっかけとなり「やってみよう」と思われた方もいらっしゃいました。

「キノコビト」がご入居者にもたらしたポジティブな影響

ゲームをプレイするご入居者

ゲームをプレイするご入居者

ご入居者のなかには、筋肉の衰えなどが原因で、うつむきがちだったり、手や腕を動かしづらかったりする方もいらっしゃいます。そういった方でもゲームをプレイする際は、画面を見るために背筋を伸ばそうとする、キャラクターをつかむために手や腕、時には上半身全体を動かそうとする、などの試みを自然に重ねることになり、徐々に身体の可動域が広がってきました。例えば、肘をつかないと洗顔ができなかった方が、ゲーム体験を重ねることで体幹が鍛えられ、以前と同じように洗顔ができるようになった、など、日常生活の動きにも良い効果がみられます。
当初は、画面の中の「手」と、現実世界でのご自分の「手」の動きの同調に戸惑われる方もいましたが、試行錯誤しながら徐々に慣れていかれることは認知や判断の訓練にもなり、空間認識機能の改善が期待できるのではないかとも感じています。

また、ご入居者間のコミュニケーションにも思いがけない影響がありました。「あのゲーム遊んでみた?」「何点までいった?」などの話題を通じ、今まで以上に頻繁にお話をされるようになった方々がいらっしゃいます。ご入居者同士の関係性にも良い影響をもたらしてくれたと思っています。
今では毎日自発的にプレイしているご入居者が何人もいらっしゃいます。お友達同士で、本当に楽しんで取組んでおられます。

さらにもう一つ、これはソニーグループならではと思うのですが、「このゲームはまだ開発中のもので、皆さんに実際にプレイしていただき、感想などいろいろなことを知りたいのだそうです」とお伝えすると、実に多様なコメントをいただきます。ご入居者のなかに、「開発の一つの工程に携わっている」という、ある意味「社会参加」のような意識が芽生えているようにも思えます。

リハビリというと、専用器具が並んだ部屋で、時には歯を食いしばりながら取組む、というイメージをお持ちの方が少なくないと思いますし、そういった面があることも事実です。だからこそ、「楽しんで」リハビリに取組んでいただける入り口として、「キノコビト」はとてもよいツールだと感じています。

ゲームをプレイ中のご入居者と担当者
ゲームをプレイ中のご入居者と高橋

「何も身につけない」「何も手に持たない」「設定の必要がない」をコンセプトに、
ゲームの新たな「あり方」をともに考える

ソニーグループ(株)クリエイティブセンター デザインプロデューサー 高木 悟郎

担当者写真

私はクリエイティブセンターで、ソニーグループ各社の商品やサービスのUX/UIデザインに携わっています。また、近年はグループ各社と共同での研究開発案件の提案にも取組んでいます。
今回の「キノコビト」開発プロジェクトは、SIEとの連携による「身体動作のセンシングデータを活用した新たな提案」としてスタートし、高齢化が進み社会課題にもなっているリハビリテーションに着目しました。開発の過程では、リハビリテーションについての専門知識を得るために、ソニー・ライフケアや作業療法士の方から多くのフィードバックをいただきました。
多くの場合、リハビリは自分と向き合う辛い体験となってしまいます。この点に着目し、ソニーらしく切り口を変え、クリエイティブな問題解決の方法について模索しました。その結果、「楽しみながらリハビリを行う」というコンセプトを提案し、リハビリをゲームの形に再構築しました。ゲームにしたことで、最高得点を競って毎日ひそかに練習を重ねる、食後ご友人と一緒にプレイする、など、「ゲームで遊びたい」気持ちが原動力となり、通常のリハビリとは違った方向からご入居者の生活に溶け込めていると感じています。

(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント
フューチャーテクノロジーグループ インタラクション R&D部門 開発3部 課長 宮田 直之

担当者写真

私は、専用コントローラーに頼らない、ゲームの新しいインタラクションの研究開発を行っています。コアゲーマー以外のユーザー層にもアプローチするために、どのようなインタラクションが有効なのか探るべく、さまざまなトライアルを進めています。
クリエイティブセンターとの検討を進めるなかで、対象の動きを認識するスマートカメラに対し、身体を動かす必然性があるリハビリ分野で非常に大きな需要があることを発見し、プロジェクトが始まりました。
このスマートカメラには、ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)(SSS)が開発する最先端センサーのプロトタイプ(試作品)とソニーグループ(株)(SGC) Technology Infrastructure Center AI技術部門が開発する3D手姿勢認識技術を搭載しています。SSSでも新たなセンサーの用途を探索しており、先端技術を用いて社会課題の解決に貢献したいという思いが一致し、今回の協業に至りました。
今回のゲームのコンセプトは「何も身につけない」「何も手に持たない」「設定の必要がない」 です。専用コントローラーなどを必要とせず、ただ椅子に座るだけですぐにゲームが開始できるよう、研究開発を進めました。

(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント
グローバルデザインセンター R&Dデザイングループ 松島 正憲

担当者写真

私は宮田の言及したゲームの新しいインタラクション開発に、視覚的な分野から関与しています。
例えば今回のゲームでは、最先端センサーやセンシング技術を効果的に活用するため、また、さまざまな方に抵抗なく体験していただけるように、デザインのディレクションを行いました。
見た目は非常に重要です。リハビリ要素を全面に出した硬いビジュアルではなく、あくまでも楽しいゲームなのだ、とユーザーに受け止めてもらえるような親しみやすいデザインを設定することで、ユーザーのリハビリに対する心理的障壁を下げることが可能になります。また、ユーザーにリハビリだと過度に意識させずに、リハビリと同等の効果が得られることが理想です。毎日、記録更新のため挑戦されているご入居者には、「キノコビト」をゲームとして受け止めていただけていると感じており、これはまさに我々の意図した結果です。
ただ、あまり「ゲームらしさ」ばかり追求すると、リハビリを行う実感が薄れてしまう可能性があるので、バランスを意識して開発を続けたいと考えています。

先端技術を社会貢献につなげていく

担当者写真

ソニー・ライフケアの皆さんからは、トライアルを開始する際に「どれくらいプレイするとどのような効果につながるのか?」といった基準に対する質問がありました。あくまでもリハビリの一環として導入するので、作業療法士が用いる専門的な評価基準も参考に、治療に一層の活用ができるよう、現場の意見を反映した検証と改良を継続していきます。
将来的には、老人ホームやリハビリテーションの専門病院だけではなく、個人宅でも体験できるようなゲームに発展させていきたいです。リハビリになかなかアクセスできない方に向けても広く展開し、ソニーグループの先端技術を用いて社会に貢献していきたいと考えています。


担当者集合写真

左から宮田、高橋、高木、松島


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